- 重要なお知らせ
訪日市場 Expert eyes(2022年8月6日配信)
訪日ムスリム旅行者は増加の一途
コロナ前のインバウンドにおける課題の一つにムスリム(イスラム教徒)旅行者へのおもてなしの拡充がありました。その対応に積極的な方と消極的な方が混在していたのが2019年当時です。
世界人口の1/4を占めるイスラム教徒ですが、インドネシアの2億人強を筆頭に約6割はアジアの居住者です。ムスリムを特に多く抱える東南アジアからの訪日ゲストは2019年まで増加し続けていましたが、彼らは日本が大好きで日本でのグルメ、ショッピング、観光地巡りを心から楽しんでくれていました。そして本格的に訪日旅行が回復するこれからも増加し続けていくことでしょう。
ムスリム旅行者が日本で困ったこと
日本の宿泊施設や小売店、飲食店の接客は世界一と評価されています。日本人相手ではどのようなお客様に対してもそれぞれに配慮ができる高いサービス水準を誇っています。
一方で、ムスリムに関する知識が乏しい日本ではムスリム旅行者の困りごとは多いようです。
日本を訪れた一般的なムスリムの声として、
「安心して食事ができるレストランがなかなか見つからない」
「お菓子をお土産で買いたかったが、成分表示がないので諦めた」
「礼拝施設がある店や観光地が少なく、礼拝をする場所を見つけるのが大変だった」
などの多岐にわたる困りごとがあがっていました。
先に述べたインドネシアだけでなく、マレーシアやシンガポールなどのムスリムが多い地域から再度訪日の大きな波が押し寄せてくる前に、私たちは受入れ対応を整備しなければならないのです。
食に関して覚えておくべき「ハラール」と「ハラーム」
ムスリムの「食」には厳格なルールがあります。彼らに食事を提供するにあたっては「ハラール」と「ハラーム」という言葉を理解する必要があります。
以下にルールの一部を抜粋しました。
▼「ハラール」(許可された)
① 豚肉や豚に由来する成分を含んでいないこと
② 豚以外の食肉でも、イスラム法に則って処理されていること
③ 製造・加工・調理の過程で、禁忌とされるものに触れていないこと
▼「ハラーム」(禁じられた)
① 豚肉(豚肉を調理した油や調理器具・食器類も対象)
② アルコール飲料(調味料に含まれるアルコールも対象)
③ 血・血液(肉料理の肉汁なども好ましくない)
食の提供において「厳しい基準のクリア」よりも大事なこと
食の提供におけるムスリムの基準の一部を以下に記します。
① 料理に使われている原材料を分かりやすく伝える
② アルコールはひと目でわかるようにする
③ 調理器具や食器についても注意
④ 野菜や果物、魚介類も大半はハラール、日本らしい季節の食材を活かした料理は上級のおもてなし
⑤ 先入観は禁物、判断は一人ひとりのムスリムゲストの考え方次第
しかしながら、ムスリムへの食の提供で最も重要なことは、その料理が「何を使い、どのように作られ、どう提供されているのか」という情報提供と、出来る範囲で「提供相手の要望にしっかりと応えてあげる」という姿勢だと私は考えます。
旅行中でも変わらない「礼拝」
非イスラム国である日本では「礼拝」がどのようなものか知られておらず、ムスリム旅行者への配慮が十分でないと言われています。「礼拝」について知っておくべき代表的なことを以下に記します。
① 1日に5回、1回約10分前後
② メッカの方角に向けて行う
③ 礼拝の前には、手・口・鼻・顔・腕・髪・足を流水で清める
自施設において「礼拝」への対応ができない場合は、近隣の礼拝対応可能な施設をあらかじめ調べておき、速やかなご案内ができるようにしましょう。
接遇で気を付けたいこと
ムスリムだからといって、意識しすぎたり、あまりに神経質になったりする必要はありません。それでも、ムスリムの人々が気を付けているマナーや習慣を知り最低限の配慮を行うことで、彼らの訪日旅行における満足度は格段に上がるはずです。接遇時に気を付けたいことの一部を記しておきます。
① 左手は不浄とされることから、握手などは右手で行う
② 女性に対しては女性による接客が望ましいとされている
③ 素肌を過剰に見せることは好ましくないことから、接客スタッフの服装にも心配りが必要
ムスリム対応は「インバウンド施策」ではなく「企業・組織のダイバーシティ意識」
私がかつて百貨店にいた頃、多種多様な日本人顧客を想定して受入れ対応をアレンジしていました。年齢・性別・職業だけでなく、身体機能や特別な嗜好などにも配慮しました。これは特別なことではなく、他店でも行っていたと思います。
そして本来はインバウンド(訪日ゲスト)対応も同様なのだと考えます。
ところが、日本の企業の一部は日本人相手であればあらゆる顧客の「不」を解消するための努力を惜しまないのですが、それがインバウンド、特にムスリム対応となるとそうではないようです。
コロナ禍で激減したものの、恐らく今後は観光業のみならず訪日外国人の消費力に経営を支えられる企業は少なくないはずです。
その時に、インバウンドという言葉でまるっと外国人をとらえるか、顧客の多様性に真摯に向き合い外国人受入れを考えるか、その成果は大きく差が開きそうな気がします。
ジャパンショッピングツーリズム協会
訪⽇市場チーフアナリスト 神林淳氏
首都圏百貨店において、婦人服・リビング用品バイヤーを経て販売推進部に11年間所属。販売促進・広告・広報・装飾などに携わりながら、地域密着の方針のもと店舗営業計画の策定を行う。2016年、USPジャパンに⼊社。⽇本百貨店協会をはじめ、多くの⼩売事業者のインバウンド対応アドバイザーに従事。近年は東京都派遣型アドバイザー・セミナー講師として、飲食店、観光施設、宿泊施設・交通事業者など多岐にわたるインバウンドサポートを⾏っている。またインバウンドの諸問題解決のために国土交通省と連携した「境港の港湾免税販売」や「横浜港のクルーズ事業活性化」の実証実験を担当。⼀⽅で、経産省と連携して「プレミアムフライデー」の啓蒙および地⽅案件プロデュースも⾏っている。観光庁「世界⽔準のDMO形成促進事業」における外部専⾨⼈材に選定。
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- 情報戦略・広報部 池田大作
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