一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会

訪日市場 Expert eyes(2022年10月12日配信)

訪日市場 Expert eyes(2022年10月12日配信)

「それまでの積み重ね、心掛けがあって、やっと咲いた」

「流れをいかに繊細な技術でうまく処理して、いかにロスなくいくか、それが自分の武器」

2016年リオ五輪のカヌー競技において、見事なパドルさばきで日本人初のメダルを獲得した羽根田選手の言葉です。


写真=イメージ

 

誰もが待っていた水際対策緩和

日本政府による10.11水際対策緩和公表を受けてついに訪日旅行の本格的な再開が始まりました。
緩和の検討中だった9月中旬時点でも各国における訪日情報が増加していましたが、ここに来てさらに多くのメディアが「フライト情報」「旅行計画時の注意点」などに記事のテーマを変更しています。
海外の旅行代理店は、9月は過去最も忙しい月の1つになったといい、2023年と2024年のツアーはすべて定員を追加しているといいます。
エクスペディアでは日本への検索が急増しており、9月23日から25日までの大阪への航空券検索は前の週の平均と比べて350%増となったほか東京も235%増、札幌は35%増となりました。
さらにフライト情報として、日本路線の供給量増加、航空の運航再開計画等の記事が躍っています。


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「変わらぬ訪日人気」の変わるコト

コロナ禍における様々な調査は、「訪日は相変わらず人気であり、解禁後の最初の渡航先は日本」という各国ツーリストの意向を示していました。
訪日の最大の魅力は四季折々の風景やグルメで、上記調査の詳細結果からも基本的にはそれは変わらないと言われています。
しかしながら実は少し変わるのです。それは「円安」という係数が作用するからです。
当面の訪日の魅力をあえて表現すると、「円安×紅葉」であったり「円安×雪」であったり、来年は「円安×桜」ということなのです。
それはショッピングに最も強いインパクトを生むものでしょう。
極端にかつ生々しく書くならば、1ドル100円から150円になった場合の「米国人の10000ドルの買物」が日本円の売上に与えるインパクトは50万円となって生まれるのです。
私が海外に住んでいる富裕層ならば、いま間違いなく日本行きを選択します(笑)


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「無」から「有」、そして「多」に対する準備

そんな状況下ですから、フライトの回復スピードに合わせて、つまり輸送定員数の増加通りに観光客の訪日数拡大は進みます。
そして日本のインバウンド市場、とりわけショッピングの現場は、2019年以前つまりコロナ前を凌ぐインバウンドバブルを経験する可能性が高いのです。
2019年までに訪日観光客が購入してくれていたモノの抜け漏れのない品揃えに加えて、コロナ禍で起きた各市場の意識や嗜好の変化をリサーチし品揃えやサービスに反映させることが、とても喜ばしい成果につながることでしょう。
一方でこの2年半強の間、訪日観光客がほぼゼロだったことで私たちには「失ったもの」と「得たもの」があり、それを意識し早い段階でアクションに移すことが重要だと考えます。
それは訪日観光客数の「無」→「有」→「多」に対するアクションです。


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「人材」と「オーバーツーリズム」

先ほどの「失ったもの」は人材のことです。
インバウンド市場が右肩上がりの2010年代に多くの小売店は段階的に、外国語対応ができないという「不の解消」から多言語スタッフを登用し、その後よりよい対応という「他者との差別化」から高水準の多言語スタッフを活用してきました。
しかしながらコロナ禍では、目の前に外国人観光客がいなくなったことで、残念ながら多言語対応スタッフが去っていった事業者も少なくないと思います。
外国人観光客が待ちに待った訪日、その日本での思い出を「コミュニケーション不足でイマイチの旅だった」とがっかりさせないために、早めに高水準の多言語スタッフを確保することは大事です。
一方「得たもの」はオーバーツーリズム対応です。
2015年頃から2019年までの外国人観光客の多さで混乱する現場では、外国人が混雑に辟易とすることも多かったため訪日旅行のバリューが下がることの懸念がありました。
「日本はおもてなしの国、思い出になるような接客が受けられる!」という観光客の期待を裏切ったこともあったでしょう。
しかしコロナ禍は多くの事業者、とりわけインバウンド担当者に、立ち止まり考える時間を与えてくれました。
おそらく同じ数の観光客が訪れても、多くの事業者は「進化したオペレーション」と「深化した接客」を実現させる、その姿が見ることができることは想像に難くありません。


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いま問われるパドルさばき

もう一度、羽根田選手の言葉を繰り返します。
「それまでの積み重ね、心掛けがあって、やっと咲いた」
コロナ前の経験をもとにした「成功事例の反復」と「課題の修正・改善」をコロナ禍でしっかりと準備してきた事業者のもとには、本格的な訪日再開後に早く大きな成果が出ると思います。
「流れをいかに繊細な技術でうまく処理して、いかにロスなくいくか、それが自分の武器」
訪日再開後の状況を見誤ることなく、冷静に流れに乗って推進したり、時には流れに逆らって後退したりしながら、結果として正しい方向に適正なスピードで進みながらゴールを目指すことが重要です。
そのパドルを握っているのはみなさん一人ひとりなのです。
いまからでも間に合います。
インバウンドは今後日本に、2019年までよりも大きな恩恵をもたらすはずで、今からしっかりと対応していくことで2025年も2030年も、笑顔で迎えられることは間違いないはずです。

ジャパンショッピングツーリズム協会
訪⽇市場チーフアナリスト 神林淳氏

首都圏百貨店において、婦人服・リビング用品バイヤーを経て販売推進部に11年間所属。販売促進・広告・広報・装飾などに携わりながら、地域密着の方針のもと店舗営業計画の策定を行う。2016年、USPジャパンに⼊社。⽇本百貨店協会をはじめ、多くの⼩売事業者のインバウンド対応アドバイザーに従事。近年は東京都派遣型アドバイザー・セミナー講師として、飲食店、観光施設、宿泊施設・交通事業者など多岐にわたるインバウンドサポートを⾏っている。またインバウンドの諸問題解決のために国土交通省と連携した「境港の港湾免税販売」や「横浜港のクルーズ事業活性化」の実証実験を担当。⼀⽅で、経産省と連携して「プレミアムフライデー」の啓蒙および地⽅案件プロデュースも⾏っている。観光庁「世界⽔準のDMO形成促進事業」における外部専⾨⼈材に選定。

本件に関するお問い合わせ
  • MAIL:pr@jsto.or.jp

  • 情報戦略・広報部 池田大作

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