一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会

訪日市場 Expert eyes(2022年12月1日配信)

訪日市場 Expert eyes(2022年12月1日配信)

投打二刀流でMLBを席巻し続ける大谷翔平選手、その活躍は多くの日本人の生活の精神的支柱にもなっているほどです。一部では、投打を同時にこなすということを「今までの選手がやらなかっただけ」という何とも残念な評価もあるようですが、投手と野手は「全く別のスポーツ」と言われるほど調整が難しく、何よりもあの水準でのTwo-Wayの成果はケチのつけようがないと思います。
そしてコロナ前の訪日インバウンドも、ある時期まではエアラインとクルーズの二刀流で成長していた側面がありました。皆さんは覚えていますでしょうか?


写真=イメージ

 

いよいよ再開される国際クルーズ

国土交通省は2022年11月15日、国際クルーズの受入を再開すると発表しました。日本では新型コロナの感染が拡大した2020年3月以降、日本を出発して海外に寄港、また海外を出発して日本に到着する国際クルーズは、運航停止を余儀なくされていました。それが、関係業界団体による運航のガイドラインが策定・公開され、ようやく国際クルーズ再開の準備が整いました。
国際クルーズの再開第1号は、「にっぽん丸」が2022年12月に出航する「モーリシャスプレシャスクルーズ」になる予定です。さらに日本船による国際クルーズは、「飛鳥Ⅱ」が2023年2月に出航する「オセアニアグランドクルーズ」、同年4月に出航する「世界一周クルーズ」と続きます。日本のクルーズ船社の業界団体であるJOPA(日本外航客船協会)は、「今後、わが国に寄港する内外の外航クルーズ船の増加に伴い、クルーズ船を取り巻く環境がコロナ禍以前のレベルに復活し、さらなる進展が見込まれる」と期待を示しました。


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外国客船は来年早々を皮切りに143本の運航を予定

2020年3月以降、日本発着クルーズを準備しながらもキャンセルを余儀なくされていた外国客船会社の業界団体JICC(日本国際クルーズ協議会)は、国際クルーズの再開発表を受け、「待ちに待った再開へのステップであり、大変喜んでいる。国土交通省港湾局、海事局、厚労省含めた関係者の尽力に感謝する」とコメントを発表しました。
JICCによると、同会員会社による再開後初の日本寄港は2023年3月8日、プリンセス・クルーズの「ダイヤモンド・プリンセス(2706人)」による大阪寄港と、ホーランド・アメリカの「ウエステルダム(1964名)」の石垣島寄港になる見込みです。また、JICC会員以外では、フェニックス・ライゼン社の「アマデア(570名)」が同3月1日に清水港への寄港を予定。ただし、これ以外の外国のクルーズ会社が、3月1日以前のスケジュールで日本に寄港する可能性もあるそうです。
JICCによると、現在のところ2023年3月以降、外国船社による日本発着の国際クルーズは、143本が予定されています。船の大きさは大型客船を中心に小型のブティックタイプまで幅広く、かつ、クルーズタイプもカジュアルからラグジュアリーまで、さまざまなスタイルの国際クルーズが国内各地の港に寄港することで、特に地方の観光と経済の活性化が期待されます。


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急成長から停滞へ、2019年までのクルーズ船寄港

2019年までのインバウンドの課題の一つに、航空便の座席が常に満席だったことがありました。日本に来たくても来ることができない外国人ツーリストがいたということです。
また大都市や人気観光地へのツーリストの集中の問題もありました。そのことがオーバーツーリズム問題を引き起こしていたため、地方に分散してツーリストを送り込むことが可能なクルーズ船は大きな期待を担っていました。
しかしながら訪日クルーズ船による日本寄港数は2018年、訪日旅客数は2017年をピークに減少し始めていたのです。
訪日インバウンド全体が伸長していた裏で、なぜ訪日クルーズはコロナを待たずに人気が頭打ちになってしまったのでしょう?

 

クルーズ離れが生じた原因

その大きな要因の一つは、クルーズ船寄港中の観光ツアーのクオリティです。
寄港中の貴重な数時間の中で、ツーリストは寄港地の観光をふんだんに楽しむべくツアーに参加していました。ところが、いくつかのツアーはバスで移動後、「観光スポットはもれなく短時間」「指定の免税店では長時間」という残念な内容のものでした。
その結果、クルーズ旅行に対するツーリストの満足度は下がってしまったのです。
日本の各港湾の関係者の方々の責任ではありません。
私が知る限り、各地域で外国人旅客の受入れに従事されていた方は、短い寄港時間の中で「いかに〇〇市を知ってもらい楽しんでもらえるか」に力を注いでいました。
歓迎のセレモニー、港湾内での人的サービスやインフラ(交通やWi-Fiなど)の拡充も行っていました。
しかしながら彼らの手の届かないところで、外国の事業者による「低質なオプショナルツアー」が組まれ、多くのツーリストはそこに参加しては不満を募らせていったのです。
当時私も、その打破に貢献する事業に携わらせていただいたことがありました。


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訪日インバウンドの再上昇を左右する今後のクルーズ旅行

クルーズ会社とともに運航再開を働きかけてきたJATA(日本旅行業協会)も、国際クルーズの再開発表に「クルーズは、日本人のみならず外国人の訪日旅行にも利用されており、特に地方経済への波及効果が大きい」と、期待を表明しています。入船時の検疫ルールの見直しについても要望活動をしてきたことを明かし、「クルーズの再開を待ちわびていた旅行者のために、また、観光業界全体にとっても元気づけられる明るいニュース」と、歓迎の意を示しています。
一方で、再開後の訪日クルーズの内容、特に寄港地での観光ツアーの質の問題がどのように解決されているか、もしくは全く解決されていないのか、私は分かりません。
「訪日インバウンドはV字回復基調も、訪日クルーズは伸び悩み」や「航空便利用のツーリストの満足度90%、クルーズ船利用のツーリストの満足度30%」というニュースが出てきてはいけないのです。

大谷翔平選手は野球の最高峰の舞台MLBにおけるプレーで、投打ともにハイレベルだからこそ二刀流選手(Two-Wayプレーヤー)として人気があり万人に認められています。
「投打ともにできます、投打ともに頑張っています、はい、成績は15勝・防御率2.40、一方で打率は‘150・本塁打3本です」では二刀流選手とは言えないでしょう。

「20勝・防御率1.50」の空の旅、「‘300・本塁打50本」の海の旅、訪日インバウンドの真の二刀流の誕生を待ちたいと思います。

ジャパンショッピングツーリズム協会
訪⽇市場チーフアナリスト 神林淳氏

首都圏百貨店において、婦人服・リビング用品バイヤーを経て販売推進部に11年間所属。販売促進・広告・広報・装飾などに携わりながら、地域密着の方針のもと店舗営業計画の策定を行う。2016年、USPジャパンに⼊社。⽇本百貨店協会をはじめ、多くの⼩売事業者のインバウンド対応アドバイザーに従事。近年は東京都派遣型アドバイザー・セミナー講師として、飲食店、観光施設、宿泊施設・交通事業者など多岐にわたるインバウンドサポートを⾏っている。またインバウンドの諸問題解決のために国土交通省と連携した「境港の港湾免税販売」や「横浜港のクルーズ事業活性化」の実証実験を担当。⼀⽅で、経産省と連携して「プレミアムフライデー」の啓蒙および地⽅案件プロデュースも⾏っている。観光庁「世界⽔準のDMO形成促進事業」における外部専⾨⼈材に選定。

本件に関するお問い合わせ
  • MAIL:pr@jsto.or.jp

  • 情報戦略・広報部 池田大作

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