一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会

訪日市場 Expert eyes(2024年5月22日配信)

訪日市場 Expert eyes(2024年5月22日配信)

私が大学に通っていたころの話です。
実家から大学までの電車通学のルート上に、渋谷と新宿という二大繁華街がありました。
人間を堕落させるような日々の誘惑によく負けなかったと我ながら感心します。
一方で、渋谷と新宿にはランチやディナーではよくお世話になりました。
当時も「ランチおすすめランキング」とか「絶対に行くべきレストラン特集」など“食の穴場”が雑誌を賑わしていたので、私の頭の中には都内各所の評判の店に行くプランは常にありました。
しかしながら結局、通学ルート上の渋谷か新宿、大学の最寄りエリアで食事してしまうことが多く、これは通学上の「ゴールデンルート」における制約された行動だったのです。


写真=イメージ

 

「ゴールデンルート」がけん引してきたインバウンド

訪日外国人観光客にとって定番となっている旅行ルートを「ゴールデンルート」といいます。
ゴールデンルートとは、メジャーで人気のある観光スポットを回る旅行の行程のことです。
有名な地域だけを効率的に見て回るルートになるため、最小限の旅費、日程で多くのスポットを見て回ることができます。
日本のゴールデンルートとして最も人気だったのが、成田空港から入国し、東京周辺、箱根、富士山、名古屋等を経由し関西を観光し、関西国際空港から帰国するというものです。
1日目:成田空港到着後、成田周辺のホテルで一泊。周辺観光スポットを回ることも。
2日目:東京に向かい、浅草寺のある下町を楽しんで、銀座や新宿でショッピングを満喫し、東京で一泊。
3日目:箱根に向かい周辺の観光スポットを回って河口湖へ向かう。
4日目:富士山を見ることのできるエリアを通って名古屋に向かう。
5日目:名古屋を出発し、京都へ向かって主要な寺社を観光し日本の歴史を満喫。
6日目:大阪を観光。大阪城や水族館を回り、心斎橋でショッピングを楽しんで大阪で一泊。
7日目:関西国際空港から自国に向け日本を出国。
これが訪日観光の定番でした。(関西空港から成田空港への逆回りも然りです)


写真=イメージ

 

官民連携で挑む「西のゴールデンルート」

そして今までも考え方としてはありましたが、正式に大阪の西から九州にかけて「西のゴールデンルート」と位置づけ、観光での消費額が多い欧米からの旅行者を呼び込もうと、福岡市などが新たな団体を発足させました。
この新たな団体、「西のゴールデンルートアライアンス」には大阪より西の福岡市や広島県などあわせて40の自治体のほか、100余りの民間企業などがメンバーとして加わり、5月17日、福岡市で設立総会が開かれました。
団体としては大阪の西から九州にかけての観光地を結ぶルートを「西のゴールデンルート」として新たに打ち出し、観光での消費額が多い欧米からの旅行者の呼び込みを図る考えです。
山陽新幹線や九州新幹線の沿線の自治体などは新たなコンセプトを打ち出し、一体的に観光のブランディングを行って欧米からの旅行者の呼び込みを図ることになりました。
発想がトップダウン的ではありますが、良い取組みだと思います。
 


写真=イメージ

 

「非ゴールデンルート」のポテンシャル

前述の考え方では、「ルート上のスポットは賑わうがルートの外側のエリアは?」ということになります。
非ゴールデンルートの観光地の中でも、北海道、沖縄といった観光リソースが豊富で国際路線が充実している地域は訪日外国人が多く宿泊していますので心配は要りません。
問題は観光特化地でもなく、ゴールデンルート上にもない地方のインバウンドです。
これらのエリアがインバウンドの恩恵を得てこそ地方活性化が推進され、またオーバーツーリズムという国難の本当の解決にもつながります。
特筆すべきは、今外国人の意識が地方部のインバウンドの追い風となっているということです。
直近の外国人観光客は
日本の自然・景観・伝統的な建築・日本人の気質そのものなどを好んでいる
一般的に知られていない、まだ見ぬ日本に並々ならぬ興味・関心を抱いている
効率重視の旅程中心だったコロナ前よりも、時間をかけた良質な旅を求めている
満足度の高いものであれば1日1コンテンツでも納得してくれる
という傾向が強いのです。
これは地方でも提供できるというよりも、地方でなければ価値を見出せないことかもしれません。


写真=イメージ

 

「ゴールデンルート」<「スペシャルデスティネーション」

私の学生時代の話に戻ります。
実は通学ルート上の渋谷、新宿、大学の最寄り以外で、ランチをすることもありました。
他では味わうことができない〇〇を提供する、というお店です。
それは「ラーメン」であったり「カレー」であったり「餃子」であったり…、いずれにしてもその店に行かないと食べることができない特殊な味や盛り付けのものでした。
通学ルート上になくても、そんな特別な店だけは時間をかけてでも行きました。
私にとっての「スペシャル」ですね。
観光地に関しても、そんなスペシャルを外国人観光客の皆さんに感じてもらうことができるのではないでしょうか。
今外国人観光客は、日本人以上に日本の隅々まで知っていますし、もっと知ろうともしてくれています。
かけがえのないもの、秀でたもの、珍しいもの、そんなコンテンツをしっかりと磨き上げ、伝える一工夫を行い、ジワジワと伝播させることで「ゴールデンルート」に負けない「スペシャルデスティネーション」になることができるはずなのです。


写真=イメージ

 

後半に続く。次回、「スペシャル」を生む条件と視点

ジャパンショッピングツーリズム協会
訪⽇市場チーフアナリスト 神林淳氏

首都圏百貨店において、婦人服・リビング用品バイヤーを経て販売推進部に11年間所属。販売促進・広告・広報・装飾などに携わりながら、地域密着の方針のもと店舗営業計画の策定を行う。2016年、USPジャパンに⼊社。⽇本百貨店協会をはじめ、多くの⼩売事業者のインバウンド対応アドバイザーに従事。近年は東京都派遣型アドバイザー・セミナー講師として、飲食店、観光施設、宿泊施設・交通事業者など多岐にわたるインバウンドサポートを⾏っている。またインバウンドの諸問題解決のために国土交通省と連携した「境港の港湾免税販売」や「横浜港のクルーズ事業活性化」の実証実験を担当。⼀⽅で、経産省と連携して「プレミアムフライデー」の啓蒙および地⽅案件プロデュースも⾏っている。観光庁「世界⽔準のDMO形成促進事業」における外部専⾨⼈材に選定。

本件に関するお問い合わせ
  • MAIL:pr@jsto.or.jp

  • 情報戦略・広報部 池田大作

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