田川会長は冒頭挨拶で、観光地の集中と分散を指摘し、地産地消の促進と地域資源の活用についてお話しさせていただきました。
インバウンド観光の現状と課題
●2023年の訪日ゲスト数は約3687万人、消費額は8兆1395億円となり過去最高を更新した。
●円安の影響もありつつ、成長の継続が期待される。
●日本の観光発展には、アウトバウンド(日本人の海外旅行)とのバランスよく伸びることが、6000万人・15兆円(2030年政府目標)を考える上で重要。
多様化する訪日ゲストのニーズとショッピングツーリズム
●観光地の集中と分散を考え、地域の活性化に取り組む必要がある。
●短期〜長期滞在、体験旅行、アドベンチャーツーリズム、エコツーリズムなど、旅のスタイルの多様化に応え、地域文化の価値を伝えることが地域経済の活性化につながる。
●地産地消の促進や、地域特産品の活用はショッピングツーリズムを考える上で重要。
大阪・関西万博の意義と今後の展望
●WTTC(世界旅行ツーリズム協議会)をはじめとした国際機関も、2025年は観光産業の復活の年と位置づけになることは2〜3年前から言われてきた。
●「未来のデザイン」をテーマに、自らの将来像も考える機会とする。
●万博が開催される本年、日本の魅力を世界に発信し、観光業界への若手参入を促進することが大事とされる。
●JSTO会員企業とともに観光業界全体の成長を目指していきたい。
2.基調講演

~博多大丸が挑戦する九州各地域の課題解決~九州探検隊が目指す「地域共栄」とは
株式会社博多大丸 代表取締役社長 村本光児 氏
基調講演に登壇した博多大丸・村本光児代表取締役社長は、自身が隊長を務める「九州探検隊」の取組事例を通じた、地域の課題解決や地域共栄に向けた具体的方法とその効果についてお話いただきました。
百貨店業界の現状と課題
●売上の減少が続き、ピーク時から半減。
●大都市圏と地方の格差、顧客の高齢化が進行。
●百貨店業態の変革が求められるが、ビジネスモデルの革新が遅れている。
●価格競争に頼る傾向が強まり、本質的な価値の提供が課題。
九州探検隊の取り組みと目的
●2018年に発足し、「地域社会との共生プロジェクト」として九州・沖縄の119自治体のうち116とアンバサダー契約を締結。
●地域産品の開発、PR活動、イベント開催、ふるさと納税の活用を推進。
●「ひと・もの・こと」を発掘、地域の課題を自治体と連携し、持続可能な成長を支援。
具体的なプロジェクト事例
1. 都城メンチプロジェクト(宮崎県都城市)
地域特産のメンチカツをブランド化し、ふるさと納税やイベントを通じて販売促進。
ホットモットとのコラボ弁当が宮崎県内で成功し、全国展開を検討中。
2. 対馬市の海洋プラスチック問題解決プロジェクト
漂着プラスチックのアップサイクルによる製品開発(フラワーポット等)。
廃校を活用した環境啓発施設の設立構想。
2025年大阪・関西万博でのPR活動を計画。
3. DXを活用した地域活性化(株式会社フィナンシとの連携)
九州の生産者支援のため、ブロックチェーンを活用したクラウドファンディングを導入。/li>
宮崎県のキャビア、熊本の焼酎など、事業資金調達を支援。
4. 博多町家ふるさと館プロジェクト(福岡市)
JTBと連携し、観光拠点の運営を担当。
博多の特産品や伝統工芸品のプロモーション、新たな商品開発に着手。
村本氏コメント
九州探検隊は、最初はちいさな活動でしたが今では多くの方と繋がって、チャレンジを続けています。この活動には、本当に夢があると思っております。「地方が厳しい」と言われ、その厳しさは私もメンバーも感じてきました。この活動を通していろんな方と繋がったことで、解決ができなかった地域課題の糸口が見えた事例が増えてきました。九州探検隊はこれからも、九州をもっと元気にしたい、九州から全国、海外にファンを増やして、行政も生産者、事業者も、共に栄える絵を描いていきたいと考えています。福岡で生まれて、天神の町に育てていただいた博多大丸は、町との共生、九州への恩返しという意味においても、これからもチャレンジしていきたいと思います。
3.パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、引き続き「地域の魅力とショッピングツーリズムを通じた地域の活性化」をテーマに、博多大丸 村本氏のほか、観光庁 観光戦略課 課長 河田敦弥氏、倉敷市長 伊東香織氏を交えて国・自治体・小売業それぞれの視点が交わることでさらに地域共栄について深く掘り下げることができ、意義のあるディスカッションになりました。

登壇者:観光庁 観光戦略課 課長 河田敦弥 氏
登壇者:倉敷市長 伊東香織 氏
登壇者:株式会社博多大丸 代表取締役社長 村本光児 氏
オブザーバー:田川博己
進行:JSTO事務局長 新津研一

観光の役割と地域活性化
観光庁 観光戦略課 課長 河田敦弥氏
●観光は地域の「ありのままの姿」を活かすことで地方創生に貢献。
●インターネットの普及により情報発信がしやすくなったが、住民が観光をポジティブに受け止めることが重要。
●オーバーツーリズムの問題により、地元住民の理解と観光の調和が課題。
●「モノ消費からコト消費」への移行として、地域のストーリーを重視したショッピング体験が重要。
●「ショッピング×宿泊」により、地域への長期滞在や消費拡大を目指したい。
●訪日ゲストのニーズ(国・世代・嗜好)に合わせたマーケティングが必要。

倉敷の観光資源と魅力の伝え方
倉敷市長 伊東香織氏
●倉敷美観地区、大原美術館、ジーンズストリート、農産物(桃やマスカット)など多様な観光資源を持つものの、東京・京都・福岡など「ゴールデンルート」に埋もれがち。
●観光パンフレットの多言語化や受入体制強化(ハラル対応など)を拡充した。
●MICEの誘致による地域の体験型観光プログラムを展開。
●ショッピングツーリズムを活用し、消費の地域内循環を目指していきたい。
●地域の特産品を活かした体験型ツーリズムの推進。

ショッピングの観光的役割とプロモーション
株式会社博多大丸 代表取締役社長 村本光児氏
●観光客にとって買い物は旅の楽しみの一部であり、地域を知る手段でもある。
●九州探検隊プロジェクトでは、行政と協力し、地域の生産者と共同でイベントを展開。
●生産者が直接販売することで、消費者が「ファン」になり、リピーターへと繋がるものと考える。
●従来の「男性的な」広告スタイルから、若い世代や女性の目線を取り入れることで新たな顧客層を開拓。
●SNSを活用し、地域の魅力を身近に感じられる発信を強化。

総括
当協会会長 田川博己
●コロナ禍での教訓から、観光産業の危機を通じて、地域の原点に立ち返る重要性を再認識し、パンデミック期間中に蓄積したノウハウを活かした高付加価値化を推進してきた。
●今後の展望として、大阪・関西万博を契機に、全国の地方都市が地域の魅力を発信する機会として活用し、大都市と地方の役割分担を明確にし、地方の強みである住民参加を最大化させることが鍵になるだろう。
●ショッピングツーリズムには、下記の3要素が必要で、これらの要素が揃わないと地域のショッピングツーリズムは成立しないと考える。
「生産力」(生産者の熱意や商品への自信)
「小売業」(商品の魅力を適切に伝える力)
「行政力」(地域を支える制度や補助金の活用)
4.特別プログラム
立教大学観光学部 ショッピングツーリズムへの提言 優秀作発表

新春セミナーの特別プログラムでは、立教大学観光学部の学生による、訪日インバウンドのショッピングツーリズム推進に向けた提言に関する発表がありました。「船上百貨店〜海を旅して日本の魅力を買う〜」と題して、船上でのショッピング体験と日本文化や地域の特色を活かした特別なクルーズ体験を融合させたプロモーションのプレゼンテーションでした。
5.懇親会

ご参加くださいました会員の皆さまには重ね重ね、心より御礼申し上げます。
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